【ジャンル】ほのぼの&シリアス 短編
まだ登校している生徒が、ほとんどいない朝。
唯は子猫に会うために校舎裏に来ていた。
ある日、拓己が子猫を学校で飼っているのをメールで知ってから、毎日のように話を聞き続けた。
シロが、ご飯をたくさん食べること。
クツシタが、元気に走り回って大変なこと。
クロが、最近は寝てばかりいること。
そんなことを教えてもらう度に、見たこともない子猫たちの様子を想像して、喜んだり、 不安になったりしていた。
だから、転校先の中学が拓己と同じ学校だと知った時は本当に嬉しかった。
今、自分の一番の友達である拓己だけでなく、子猫にも会うことができるなんて夢にも思わなかったから。
そして、転校してきた日の放課後、それまで想像の中にしかいなかった子猫たちと一緒に過ごせた時間が楽しかった。
それ以来、唯は早めに家を出て、この場所に来ている。
(もうすぐ、拓くんも来るかな)
クツシタを軽く抱きしめながら、今日も幸せそうな顔で待っていた。
「拓くん、早く行こうよー」
放課後、唯は拓己の教室に来ていた。
本当に楽しそうな表情をする唯を見ていると、拓己は嬉しくなった。
時々、彼女が見せる寂しそうな表情。何かを我慢しているような、耐えているような、そんな表情。それが気になっていたが、今の唯を見て少し安心した。
「もう少ししてからじゃないと、誰かに見つかっちゃうよ」
「だって早く会いたいんだもん」
「シロたちは逃げないよ」
「それでも」
唯がむくれたような顔で横を向く。
拓己はそれを見て、つい笑ってしまう。
他の人の前では、見せないような態度の唯が見られることが嬉しかった。そんな彼女を見ていると、守りたいという気持ちになってくる。
自分には守る力なんて、ないかもしれない。けれど、それでも守りたいと思った。
唯は笑っている拓己を見て、きょとんとしていたが、その原因が自分だと分かると再び横を向いてむくれた。
(もう、みんな帰ったみたいだから、そろそろいいかな)
「分かったよ、それじゃ行こうか」
「わーい、早く行こう」
さっきまでむくれていたのが嘘のように、小さな子供みたいに喜ぶ。
「ちょっと唯、引っ張らないで」
「早く、早くー」
「そんなに急ぐと危ないよ」
「大丈夫だよ」
そのまま、拓己は引っ張られながら校舎裏へと向かった。
子猫たちを呼ぶと、ミャアミャア鳴きながら出てきた。
唯は近寄ってきた子猫を1匹ずつ順に抱きしめた。
抱きしめると柔らかくて温かい。とくん、とくん、と心臓の音がする。
それから、しばらく子猫たちと遊んでいると辺りが赤くなった。
「わあ、真っ赤だね」
上を見上げると、夕焼けで赤い雲が見える。
つられて拓己も空を見上げる。
「ねえ、拓くん。屋上に行ってみない」
「いいけど、どうして?」
「高いところから夕焼けを見たら綺麗だろうなって思って。それに夕焼けを見るのは好きだから」
「眩しいだけじゃないかな」
「そんなに眩しくないと思うよ」
「それじゃあ、行こうか。早く行かないと太陽が沈んじゃうよ」
「そうだね、急がないと」
子猫たちに軽く手を振って学校へと入る。
誰も人がいない校舎は時が止まったように静かだった。職員室がある棟なら、少しは騒がしいのかもしれない。
前を歩く拓己の後を、早足で付いて行きながら階段を上り、まだ綺麗な鉄製の扉の前に立つ。
屋上へと続く扉を開けると、赤い光が射し込んできた。
それを見て、唯は顔を輝かせて奥のほうへ歩いていく。
「拓くんも早く来なよ。綺麗だよ」
振り向いて、はしゃぎながら拓己を呼ぶ。
唯は夕焼けを見たことはあっても、高い場所から見たことはない。
初めて見る、その景色は今まで見た、なによりも美しかった。
「高いところから見ると、遠くまで見渡せるね・・・」
隣に歩いて来た拓己は景色に見とれているのか、ぼんやりとした顔で言った。
真っ赤に染まる空と、夕日を反射している町並みは本当に綺麗だ。この光景を忘れずにいたいと思った。辛い事があっても、この景色を思い出せば頑張れる気がするから。
「ねえ、拓くん・・・明日も晴れるかな」
「晴れるんじゃないかな。夕焼けの次の日は晴れになるって聞いたことがあるから」
「へぇー、そうなんだ。明日も夕焼け見られるといいな」
「てるてる坊主でも作ってみれば?」
「もう、そんなことする年じゃないよ」
「え、知らなかった・・・」
「ふーんだ、拓くんなんて嫌い」
怒ったふりをすると、拓くんが微笑む。
そして、お互いに顔を見合わせて声を出して笑う。
夕日の中、二人の服が同じ色に染まる穏やかな時。
「いつもこうして過ごせたらいいよね・・・・・・変わることなく」
夕焼け空から拓己の方に顔を動かして唯が呟く。
ただ一緒にいる。それだけで幸せだから。
「うん。僕もそう思うよ」
拓己が瞳を細めて唯を見つめる。
その笑顔が眩しいのは、きっと夕日のせいではないから。
今では、誰よりも近くに感じている。ゆっくりと想いが募っていく。
「そうだ。海って、どっちの方角にあるの?」
もしかしたら、見えるかもしれない。
微かな期待を抱きつつ、拓己に聞いてみる。
「東だよ。あの高層ビルの前の道路を、真っ直ぐに進めば海岸沿いの道に出るから。
でも結構遠いし、ここからは見えないよ。車で30分くらいかな」
唯が海を見ようとしていたことに気づいたのか、苦笑いしながら説明してくれた。
「そっか、それじゃ仕方ないね」
残念だなぁ、と言って茜色に染まる景色に目を向ける。
このまま2人で、ずっと見ていたかった。
あの日から始まった悲しい出来事を忘れる事ができる、この時がずっと続けばいいのに・・・。
でも、夕日は沈んで辺りがほの暗くなった。
どんな時間さえも永遠に続くことはなく、いずれは終わりを迎えるものなのだから。
楽しいことも。
苦しいことも。
嬉しいことも。
悲しいことも。
「夕日・・・もう沈んじゃった・・・」
それでも、名残惜しそうに見つめる。
唯のそんな表情に気付いたのか、
「今度、いっしょに海に行こうか。そこで、また夕暮れを見よう。
海に沈んでいく夕日は、さっき見たよりも、きっと綺麗だよ。だから、そんな悲しそうな顔しないで・・・元気出して」
微笑みながら、そう言ってくれた。
その言葉が、本当に嬉しかったから。
「・・・ありがとう、拓くん」
溢れる涙を抑えることが出来なかった。
これから、どうなるのか分からないけれど。
どれだけ時間があるのか分からないけれど。
「唯、そろそろ帰ろうか」
今は、幸せだから。
「うん!」
残された時を、精一杯、生きていこうと思った。
END
あとがき
子猫の事件が起こる前の、夕焼けの日のお話し。本編の設定では季節は冬。
・・・冬(2月)に綺麗な夕焼けは出るのかな?←微妙w
拓己と唯が初めて出会った場所。と、いうことで屋上での話を書きたかったんです。
ふぅ、書き上げた後で文章を削って、読みやすい長さの短編にするのは大変でした。最初は、今の1.5倍はありましたから(汗
最後の辺りで、唯が自分の死期を悟っている?ような感じなのは・・・(説明すると長くなる為、省略。2巻の六川豊くんの場面参照)
完全体である、唯は大丈夫だと思いますけど。普通ではない自分への恐怖などもあるでしょうしね。←そうことにしておいてくださいw
なお、タイトルの英語は「変わらないもの」という意味です。
誤字、脱字、不審な点、質問、『読めない漢字』等がありましたら、掲示板にてご連絡を(ぺこり
ただ、作者はピュアな性格なので、優しく接してあげてくださいね(笑
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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