もうひとつのせかい

【ジャンル】ギャグ 短編
注意・・・この作品を読むと多少イメージが損なわれる可能性もあります。
   リバーズにギャグは合わないと思われる方は読まないほうがいいかもしれませんw
 

 僕は退屈な生活を送っていた。
 通っている港南中学は進学校で、3年ともなると推薦枠や内申点のことで、いつもピリピリしている。
 学校が終わると両親に言われるがまま、家からだいぶ離れている塾へと通う。
 そんな毎日の繰り返しだった。
 流されるまま、周りと同じように、ただ生きているだけ。
 それが続いていくのだと思っていた。
 少なくとも・・・あのメールが届くまでは。

 始まりは一通のメールからだった。
 僕の14回目の誕生日の夜。
 最近、持ち始めたばかりの携帯にそれが届いた。

海を見たいのですが、私の住んでいるところには海がありません。
あなたの町に、海はありますか?
いきなりのメールでごめんなさい。

 送信者の名前や件名にも、まったく心当たりがない。
 数人の友人にはアドレスを教えていたので、その時は誰かの悪戯か、間違って届いたのだろうと軽く考えて返信しなかった。
 でも・・・メールを返さなかったことで僕の生活は急変した。

「どうして昨日、メールを返さなかったのかしら?」
「そんなこと言われても」

拓己はなぜか責められていた。

 子猫達にミルクをあげるため、早めに家を出たのはよかったが、少し歩いたところで名前を呼ばれて振り返ると、黒いスーツを着た茶髪の女性がこちらを見ながら立っていた。

その女性は拓己の前まで来ると、突然、怒り出したのだ。
「あなたが返信しなかったせいで、唯が泣き出して大変だったのよ!」
 話を聞くところによると、昨日のメールはイタズラなどではなかったようだが、あまり理解することが出来なかった。
「でも、どうして僕にメールしたんですか?それに名前や顔まで知ってるなんて」
「それは・・・その、なんていうか・・・国家機密よ!文句ある!?」
 不意に怯んだような顔をしたが、何とか口を開く。
 すごく怪しかった。とても国家機密になるほど重要だとは思えない。そもそも、僕とどんな関係があるのだろうか。
 それよりも、早くこの場から立ち去りたかった。
 さっきから周りの視線が痛いのだ。特に同じ学校の生徒からの視線には、これ以上は耐えられそうにない。
「分かりました、ちゃんと後でメールします」
 それだけ言い残すと、拓己は必死で学校へと走って行った。
 後ろの方で「まだ話は終わっていないわよ」と言う声と、髪を振り乱したオバサンが必死に追いかけて来るのが見えたが、間違いなく気のせいだろう。
 ・・・むしろ、気のせいだと思いたかった。

 さっきのことで変な噂が広まらなければいいけど・・・。
 一部始終を登校中の生徒に見られていたのがよほど気になるらしく、なるべく人に会わない様に、目立たないようにコソコソと校舎裏へと歩いて行く。
 しかし、その所為でよけいに目立っていたことに本人は気づいていなかった。
 体育倉庫に着くと、子猫達の鳴き声が聞こえてくる。
 この場所は拓己にとって、もっとも大切な場所だった。
 子猫たちがミルクを飲んでるのを見ているのが幸せだった。
 子猫たちを抱いて撫でることが幸せだった。
 子猫たちと泥だらけになってじゃれあうのも幸せだった。
「シロ、クツシタ、クロ。出ておいで」
 この3匹も今ではずいぶん懐いていて、呼べばすぐに寄ってくるようになった。
 野良猫なので人に懐かないほうが子猫たちの為だが、このまま放って置くことも出来ない。
 それに親猫の姿は一度も見たことがないので、おそらく捨てられたのだろう。
 隠しておいたボウルにミルクを入れ、子猫たちにあげようとした・・・が、1匹多かった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・逃がさ、ないわよ」
「なんでここにいるんですか・・・」
 子猫たちと一緒に、さっき撒いたばかりのオバサンまで現れた。
 だいぶ疲れているらしく、息切れしている。
「オバサン、もう年なんだから無理しちゃだめですよ」
 ミルクを飲む子猫たちを微笑みながら見つめ、心から心配する。
「オ、オ、オバサンですってー!私は、まだピチピチの30代よっ!」
 僕は、その言葉を聞いて確信した。
 この人は、間違いなく『売れ残り』なんだと。30代でピチピチなんて言葉を使うこと自体、間違っている。
 肌が荒れてる所からして、彼氏が出来ないほど忙しい・・・・・・・・・かもしれない。
 そんな失礼な事を考える拓己。
 ふと、時計を見れば時間ぎりぎりだった。
 子猫たちがミルクを飲み終わるのを見計らって、僕は一目散に教室へと走る。
 途中で振り返ってみると、泣きながら地面に文字を書いているらしいオバサンの姿が見えた。

「今朝は、やけに疲れた顔してるな」

HRが終わって、すぐに良太が話しかけてくる。
「ストーカーに追いかけられているんだ」
「そうなのか!?それは大変だな」
 言葉とは裏腹に、明らかに楽しんでいる顔だった。
 こいつは親友と呼べる数少ない内のひとりで、クラスメートでもある。
「ん、どうしたの?」
 そんな良太に反応して、ひとりの少女が近づいてきた。
 長い黒髪に、すらりとした体型の美人であり、僕の幼馴染で良太の彼女。
 2人は夫婦漫才カップルとして、クラス公認の仲になっている。
「お、有香、聞いてくれよ。拓己がストーカーされてるんだって」
「えー!それ本当なの。それで、どんな人なの?」
 こちらも良太と同じく、楽しんでいる顔だった。
「30代のオバサンがメールを返信しないからって、今朝から付き纏って来るんだよ・・・」
 そういえば、メールを返信しなくちゃいけないんだった。
 有香とストーカーについて話している良太のポケットから、こっそり携帯を抜き取り素早くメールを打つ。

僕の町には海があるけど、汚れてるので綺麗じゃありません。

 なるべく簡潔に要点だけを書いて、メールを送った。
 送信終了の文字を確認してから、今、送った分の送信履歴を消し、また良太のポケットに戻す。
 僕が困っているのに、面白がってる良太へのささやかな誕生日プレゼントだ。
 良太の誕生日は、まだ半年以上先だけど。
 その後は何事もなく時が過ぎて放課後になった。
 これから、また子猫たちの元へ行かなくてはいけない。

 今朝は、ゆっくりミルクをあげることが出来なかったので、その分も飲ませないと。後は猫缶も。
 足取りも軽い拓己が思わずスキップしながら校舎裏へと着いた時、突然、携帯が鳴った。
『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪』
 メールかと思ったが、この着メロは電話だ。
 慌てて、携帯を取り出す。どうやらバイブレータに設定し忘れていたようだ。
 急いで画面を見てみると、藤木唯の文字があった。
「・・・・・・」
 一瞬考えた後、電話を切った。
 いつの間に僕の携帯に番号が登録されたんだろう。
 唯という名前は、変なオバサンが朝に言っていた気がする。昨日、送られて来たメールの送信者名も、そういえば『yui』だった。
 ・・・あまり関わりたくないので忘れよう。
 そう考え、着信音をバイブレータに設定した。
 そんなことをしているうちに、足元まで子猫たちが来ている。
 拓己はボウルにミルクを入れて、子猫たちの前に置く。すると、みゃーみゃー鳴きながら夢中でミルクを飲み始めた。
 それを見ながら、拓己は、ちょっぴり幸せな気分に浸っていた。
 しかし、それも長くは続かず携帯が震える。
 画面には大島良太の文字。
 突然の音に驚いて逃げた子猫たちを呼びながら電話に出てみた。
「もしもし、まだ学校に居るから後で掛け直すよ」
「すいません・・・・・・私、藤木唯です。メール・・・ありがとうございました」
 思わず携帯を落としそうになった。
 携帯から聞こえてきた声は、良太ではなかった。
「あの・・・今、キミが使ってる携帯なんだけど・・・」
「え?あ、これは・・・・・・伊地知さんが、これなら繋がるからって・・・さっき捕まえた人から取ったんです・・・・」
 言い辛そうに答えてくれた。
 良太の携帯からメールを送ったのが原因で、捕まったのかもしれない。
 良太・・・・・・君の事は、ずっと忘れないよ。
「死なない程度になら好きにしていいから♪・・・それで、僕に何の用なの?」
「実は・・・拓くんと同じ県に引越して来たんです。・・・学校も同じって聞きました」
「『拓くん』っていうのは、僕のことだよね・・・」
「あ・・・そうです。伊地知さんが・・・・・・そう呼べって」
 どうやら、その「イジチ」という人物が黒幕みたいだ。
 その時、拓己の頭に1人の顔が浮かんだ。
「・・・その人って、もしかして茶髪のオバサンかな?・・・今朝、会ったんだけど」
「そうだと思います。・・・・・・計画を実行する時が来た、って言ってましたから・・・」
「計画って・・・何なの?」
「・・・ごめんなさい、それは言ったらダメなんです・・・」
 本当に申し訳なさそうに言われると、それ以上は聞けなかった。
「・・・それじゃあ、そろそろ切ります・・・。それと・・・・・・また電話してもいいですか・・・」
 電話越しでも、彼女が泣きそうになっているのが分かる。
 なるべく関わりたくないが、断ることは出来なかった。
「別にいいよ。でも今度は自分の携帯からかけてね」
 あの人からは逃げられそうにないので、諦めて現実を受け入れることにした。
「うん、ありがとう・・・ございます。それじゃ・・・」
 それだけ言うと、電話は切れた。
 はぁっ、と溜め息をつく。
 ふと、まだ学校にいる事を思い出し、慌てて周りを見回す。
 前には美味しそうにミルクを飲んでいるクロとクツシタがいた。
 その横でミルクを飲み終わったシロが全身を舐めている。
 誰もいないことが分かると、どっと疲れが出てくる。
「これからどうなるんだろう・・・」
 溜め息と共に、そうつぶやきながら、しばらく子猫たちを見つめていた。
 
 今も、『いつものように』見張られていることも知らずに。
 
 

                 END

あとがき
「メールを返さなかったらどうなるか」をギャグSSで書いてみました。
 題名の通り、リバーズ本編とは別のパラレルワールドみたいなものです。
 ギャグ部分がほとんどなく、あまり面白くなかったかも(泣
 作者の人はギャグSSを、ほとんど書かないので期待しないでねw
 そして、キャラのイメージが崩れ過ぎないように、抑え目で書いていたら少しシリアス風に・・・
 拓己と伊地知さんは、性格が少し変わってますけど・・・。
 ギャグSSは他の人に任せることに決定?(短編SSなのに長めなのは、その為だったり・・・w)
 この続きを書くかどうかはまだ未定です。
 ・・・皆さんの反応次第かな?(笑
 誤字、脱字、不審な点、質問、『読めない漢字』等がありましたら、掲示板にてご連絡を(ぺこり
 ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
 



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